APLO2021-4 フディ語 解説

Dzień dobry. MPIです。APLOも近いので、積極的に言オリ解説をしていきたいと思います。*1
今回はAPLO2021より第4問、フディ語の問題です。早速始めていきましょう!

問題の出典

APLO2021-4 Hdi(フディ語) by Chih-Chun Wang(王治鈞)
https://aplo.asia/booklets/aplo-2021-prob.ja.pdf

Step.1 形態素分割

 まずはデータとして与えられたフディ語の動詞16個を形態素に分割していきます。簡単のため、データの動詞をyaka, ... , ghali, dɗadɗaka, ... , yayaの順に1, ... , 8, 9, ... , 16としておきます。以下に分割の手順の一例を示します。
(1)動詞1, 16より、形態素-kaを動詞1, 6, 9から分離
(2)動詞2, 6より、形態素-xənを動詞2, 10, 14から分離
(3)動詞2, 12より、形態素-gha-を動詞12から分離
(4)以下同様に、形態素-iを動詞3, 8から、形態素-muを動詞4から、形態素-kuniを動詞15から、形態素-i-を動詞10, 14から、形態素-mu-を動詞13から分離
(5)動詞3, 13より動詞3をkakata-i>kakatiの変化が起きたものと看做し、-a-i>-iという音韻規則を立てる
以上より、次のように形態素に分離できます。

動詞 フディ語
1 ya-ka
2 ɗifa-xən
3 kakat(a)-i
4 daɗa-mu
5 katakata
6 ɗiɗifa-ka
7 sana
8 ghal(a)-i
9 dɗadɗa-ka
10 ks(a)-i-ksa-xən
11 ɓaɓadzaɓaɓadza
12 ɗifa-gha-ɗifa
13 kakata-mu-kakata
14 y(a)-i-ya-xən
15 kasa-kuni
16 yaya

 これにて形態素分割は一通り完了です。

Step.2 語構造分析

 次に語構造について分析します。Step.1で形態素に分割した形をよく見ると、大まかに分けて次の二つのいづれかの構造を持っていることが分かります。
Ⅰ: (語幹)-(接尾辞)
Ⅱ: (語幹)-(接中辞)-(語幹)-(接尾辞)
 ここで、それぞれの構造を持つ動詞をリストアップすると、次のようになります。

Ⅰ型 1, 2, 3, 4, 6, 7, 8, 15, 16
Ⅱ型 5, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 16

それぞれの動詞の日本語訳を参照すると、Ⅰ型の構造を持つ動詞は現在形、Ⅱ型の構造を持つ動詞は過去形であると分かります。
 これにて語構造分析は一通り完了です。

Step.3 接中辞/接尾辞分析

 次に接中辞/接尾辞について分析します。簡単な頻度解析を行うことで、-i=私が、 -ka=あなたが、-xən=それらが、-i-=私を、という対応を得ることができます。したがって、接尾辞が主語、接中辞が目的語の人称を示すということが分かり、人称接辞についても次のようにまとめることができます。

数\人称 1 2 3
sg i ka(S), gha(O)
pl ma kuni xən, ∅

ここで、3人称複数の使い分けを考えると、他動詞の主語として用いる場合のみxənが付き、その他の場合は何もつかないと考えられます。また、動詞a-2に目的語接辞ghuniが存在しますが、これはkaとghaが音韻的に対応する*2ことに注意すると、2人称複数の目的語における接辞であると分かります。
 これにて接中辞/接尾辞分析は一通り完了です。

Step.4 語幹分析

 最後に、語幹の分析を行います。語幹に着目すると、同じ動詞に対して異なる語幹が存在している場合があることが分かりますが、これはどのように使い分けられるのでしょうか。ここで動詞4と9、動詞5と13、動詞1と16を比較すると、自動詞の主語または他動詞の目的語が単数であるか複数であるかによって使い分けられていると考えられます。実際に、次のような規則を立てることができます。

自動詞Sor他動詞O 単数 複数
CV~ CVCV~
C₁C₂V~ C₁aC₂V~

 これにて語幹分析は一通り完了です。

Step.5 解答

 必要な情報が出揃ったので、解答を書きます。

規則
語構造
現在形: (語幹)-S
過去形: (語幹)-O-(語幹)-S
語幹
ɓadza=腐る, dɗa=落ちる, sna=知っている, ɗifa=隠す, kata=助ける, ksa=捕まえる, ghala=盗む, ya=産む
自動詞Sまたは他動詞Oが複数であるとき、次のように変化する。
CV~→CVCV~
C₁C₂V~→C₁aC₂V~
人称接辞

数\人称 1 2 3
sg i ka(S), gha(O)
pl ma kuni(S), ghuni(O) xən(他動詞S), ∅

設問
(a)
1. 私があなたを捕まえた
2. 私たちがあなたたちを助けた
3. それらがそれを助けた
4. それが腐る
(b)
5. kasaghunikasa
6. ɗifamu
7. daɗadaɗa
8. yayayayaxən
9. ghaghalaghaghalaka
10. snasni

*1:前回も同じようなこと言ってたような気がするが、執筆時点で321日前の記事である

*2:これは注釈にkとghは同じ調音位置であることが示されていることから分かります。

APLO2024-2 ウェンバウェンバ語 解説

Dzień dobry. MPIです。代表落ちて悲しいので、逆に(?)積極的に言オリ解説をしていきたいと思います。
今回はAPLO2024より第2問、ウェンバウェンバ語の問題です。早速始めていきましょう!

問題の出典

APLO2024-2 Wemba Wemba(ウェンバウェンバ語) by Vlad A. Neacșu
https://aplo.asia/booklets/aplo-2024-prob.ja.pdf

Step.1 語句1~10解析

 まずは前半部の語句1~10について調べていきます。初めに、1~10に出てくるウェンバウェンバ語の単語をリストアップしていきます。

ウェンバウェンバ語 出てきた語句
kali 1, 2
lar 1, 9
mir 2, 3, 4
katjin 3, 6
kurrk(i)*1 4, 10
marti 5, 6
karr 5
miRk 7
purrp(i) 7, 8, 9
puRt 10

 次に、複数の日本語訳に関連する概念を抜き出してまとめてみましょう。
・「赤い目」「まぶた」「涙」 → 目
・「屋根」「門」 → 家、建造物
・「涙」「洪水」 → 水、液体
・「脳」「頭」 → 頭
 ここで、ここに挙げられた概念を表す単語があるものとすると*2、頻度解析によりmir = 目となります。さらに、屋根を「家の頭」の意訳と解釈することで、purrp = 頭となり、また頻度解析によりlar = 家と分かります。
 このとき、katjinまたはkurrkがそれぞれ「水」「赤」を表すと分かりますが、仮にkurrk = 水であるとすると、頻度解析より10が洪水となりますが、「煙+水」が「洪水」を表すのは少し考えにくいです。よってkatjin = 水、kurrk = 赤と分かります。*3
 以上より、次の対応が分かります。

ウェンバウェンバ語 日本語直訳 日本語訳
kali lar ?+家
kali mir ?+目 まぶた
katjin mir 水+目
kurrki mir 赤+目 赤い目
marti karr ?+? 大きな鼻
marti katjin ?+水 洪水
miRk-purrp ?+頭
purrp
purrpi lar 頭+家 屋根
puRt kurrk 煙+赤 悪霊

 ところで、kali、marti、karr、miRkの意味は何でしょうか。
 まず、門とまぶたについて考えると、いずれも家や目の前に立ってそれらを守る役割を担っているので、kali = 蓋であると考えられます。次に、martiまたはkarrが「大きい」「鼻」を表すと分かるので、洪水の直訳と見比べることで、marti = 大きい、karr = 鼻であると分かります。miRkについてはいくらでもこじつけが利きそうなので一度放っておきましょう。*4
 これにて語句1~10の解析は完了です。

Step.2 語句11~24解析

 続いて後半部の語句11~24について調べていきます。前半部でウェンバウェンバ語の語句についてある程度勝手が分かったと思うので、同じ要領で進めていきます(ただし少し難しい、というかややこしいです。)。ひとまず、11~24に出てくるウェンバウェンバ語の単語をリストアップしていきます。

ウェンバウェンバ語 出てきた語句
kalk(i) 11, 12, 14, 21
tjina 11, 20, 24
werp 12
kurri 13, 22
murti 14, 15
paR 15, 16, 17
manya 17
putj(i) 18, 19, 20
karr 19
wartipi 21, 22, 23, 24
liti 23

 ここで、「カンガルー」と「幼いカンガルー」がともに日本語訳に存在するので、カンガルーを表す単語があると考えられます。同様に、川を表す単語が存在します。よって、kurri、paR、putjについては、そのうち2つが「カンガルー」、「川」を意味することが分かります。また、設問(c)の注釈より、kalkとlitiの何れかは二つの意味を持ちますが、litiの用例が一つしかないことに注意すると、kalkが二つの意味を持つと分かります。
 では、前半と同様、複数の日本語訳に関連する概念を抜き出してきてまとめてみましょう。
・「未婚の女性」「幼いカンガルー」 → 小さい
・「足骨」「足の裏」「足の指」 → 足
・「棒」「足骨」「背骨」 → 骨*5
・「棒」「短い木」 → 木
 ここで、仮にkalk = 骨/木であるとしてみます。このとき、足 = tjinaまたはwartipiとなります。足 = wartipiであるとき、語構造に注意すると、背 = murti、短い = tjinaとなります。このとき、頻度解析よりputj = 川となりますが、kurri = カンガルーだと「幼いカンガルー」=「背+カンガルー」となって流石に無理があるので、paR = カンガルー、manya = 小さいのようになります。しかし、このとき結局「未婚の女性」を先ほどの分析通りに表現できないので、そもそも足 = wartipi自体が誤りであると考えられます。したがって、足 = tjina、背 = werpです。
 このとき、paR = カンガルーであるとすると、murti = 小さいとなりますが、するとまた「未婚の女性」を上手く表せなくなるので、paRはカンガルーを表さないと考えられます。同様に、putjもカンガルーを表さないので、kurri = カンガルー、wartipi = 小さいとなります。このとき、liti = 女性となって上手くいきます。また、「wartipi kalk」は「小さい+骨/木」で「棒」、「wartipi tjina」は「小さい+足」で「足の指」を表します。
 このとき、「murti kalk」が「短い木」となるので、murti = 短い、paR = 川となり、さらに、「鼻の穴」と「足の裏」に共通する概念を考えると「見えない部分」即ち「内側」となるので、putj = 内側 = お腹となります。*6
 以上より、次の対応が分かります。

ウェンバウェンバ語 日本語直訳 日本語訳
kalki tjina 骨/木+足 足骨
kalki werp 骨/木+背 背骨
kurri カンガルー カンガルー
murti kalk 短い+骨/木 短い木
murti paR 短い+川 短い川
paR
paR manya 川+? タコ
putj 内側 お腹
putji karr 内側+鼻 鼻の穴
putji tjina 内側+骨/木
wartipi kalk 小さい+足 足の指
wartipi kurri 小さい+カンガルー 幼いカンガルー
wartipi liti 小さい+女性 未婚の女性
wartipi tjina 小さい+足 足の指

 ところで、manyaの意味は何でしょうか。「川+manya」で「タコ」を表すので、タコの何かが川のようになっていると考えると、manya = 触手のように考えられます。実際、設問(d)の29.が解けることから、manya = 手と考えることで説明がつきます。
 これにて語句11~24の解析は完了です。

Step.3 解答

 必要な情報が出揃ったので、解答を書きます。今回は答え以外の追加説明が不要となっているので、設問への答えのみ書くことにします。

設問
(a)

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
E F J C B G D H I A

(b)

11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24
K S L Q P O N U M R T X W V

(c)
25. 骨、木
26. 水
27. 女性

(d)
28. marti kurri
29. wartipi manya
30. kalki purrp

*1:kurrkとkurrkiは別の単語と看做すよりもkurrk N > kurrki Nであると解釈する方が自然であると考えられます。purrpについても同様です。

*2:問題によってはこのような考え方で解き進めるのは難しいものもありますが、ある程度情報を集めるのには有効なことも多いです。

*3:実際には、kurrk = 血だそうです。

*4:結局最後まで謎なまま終わるのですが、miRk = 卵だそうです。

*5:若干こじつけ感が強いですが、実際「棒」を木や骨などに関連するものと捉える言語は多く存在するので、そこまで無理はないかと思います。

*6:一見突飛ですが、場所と身体部位を同じ単語で示すのは珍しいことではありません。また、ここまでで対応の確定しない日本語訳は「タコ」と「お腹」しかありませんが、流石に「鼻の穴」と「足の裏」がともに「タコ」と関連するというのは考えにくいですよね。

APLO2021-3 ソマリ語 解説

Dzień dobry. MPIです。APLOが目前に迫って苦しいので、今回もAPLO解説をしていこうと思います。
今回はAPLO2021より第3問、ソマリ語の問題です。今回は特に重い問題なので、早速始めていきましょう!

問題の出典

APLO2021-3 Somali(ソマリ語) by Minkyu Kim(金珉圭)
https://aplo.asia/booklets/aplo-2021-prob.ja.pdf

Step.1 オスマニヤ文字解読

 文字が読めないことには数詞の解析が行えないので、まずはオスマニヤ文字を解読していきます。

Step.1-1 文字の収集

 まずはオスマニヤ文字を収集します。今回はオスマニヤ文字とオスマニヤ数字が混在していて非常に分かりにくいのですが、「オスマニヤ文字とオスマニヤ数字は読み分け可能である」という大前提に立つと*1、おそらくはオスマニヤ文字とオスマニヤ数字は共通の文字を持たないことが予想できます*2。したがって、オスマニヤ文字表記であると明らかになっているものと綴りを比較していくことで、オスマニヤ文字で表記された数を次のように抜き出してくることができます。

ソマリ語(オスマニヤ文字)
- 𐒂𐒙𐒆𐒆𐒙𐒁𐒖 𐒘𐒕𐒙 𐒈𐒖𐒌𐒛𐒉𐒖𐒒
1 𐒈𐒖𐒆𐒆𐒗𐒄
3 𐒏𐒝𐒁 𐒘𐒕𐒙 𐒂𐒙𐒁𐒖𐒒
4 𐒏𐒝𐒓
5 𐒖𐒍𐒖𐒇𐒂𐒖𐒒
6 𐒖𐒍𐒖𐒇 𐒘𐒕𐒙 𐒏𐒙𐒒𐒂𐒙𐒒
7 𐒖𐒍𐒖𐒇 𐒁𐒙𐒎𐒙𐒐 𐒘𐒕𐒙 𐒉𐒖𐒒 𐒘𐒕𐒙 𐒈𐒘𐒆𐒆𐒜𐒂𐒖𐒒
7 𐒇𐒚𐒌
8 𐒈𐒘𐒆𐒆𐒜𐒆
8 𐒁𐒙𐒎𐒙𐒐
9 𐒈𐒘𐒆𐒆𐒜𐒆 𐒁𐒙𐒎𐒙𐒐 𐒘𐒕𐒙 𐒐𐒘𐒄𐒆𐒖𐒒
10 𐒐𐒖𐒁𐒙 𐒏𐒚𐒒 𐒘𐒕𐒙 𐒏𐒝𐒁 𐒘𐒕𐒙 𐒐𐒖𐒛𐒂𐒖𐒒

 これにより、オスマニヤ文字の一覧表を次のように作ることができます。

𐒂 𐒙 𐒆 𐒁 𐒖 𐒘 𐒕 𐒈
𐒌 𐒛 𐒉 𐒒 𐒗 𐒄 𐒏 𐒝
𐒓 𐒍 𐒇 𐒎 𐒐 𐒜 𐒚

 これにて文字の収集は一通り完了です。

Step.1-2 表記規則の解明

 次に表記するにあたっての規則を解明します。

書記方向

 まずは書記方向です。横書きであることは確定しているので、右横書きか左横書きかを明らかにします。97を表すソマリ語は分かち書かれた3つの部分からできていますが、そのうち左から1, 2番目の部分は文字𐒙を、1, 3番目の部分は文字𐒖を共有し、2, 3番目の部分は文字を共有しないことが分かります。したがって、右横書きであるとするとラテン文字表記の"iyo"と"toddoba"が共通の音を持たず、"iyo"と"sagaashan"が共通の音を持つことになってしまい、不自然です。そこで、これが左横書きであるとすると、確かに"toddoba"と"iyo"は音oを、"toddoba"と"sagaashan"は音aを共有し、"iyo"と"sagaashan"は共通の音を持たないのでこちらの方が自然です。したがって、オスマニヤ文字は左横書きであることが分かります。

文字類型

 次に文字の類型を調べます。注意書きおよび数字の存在から表音文字であることは自明なので、表音文字内での類型を考えます。
 まず、97を表すソマリ語のオスマニヤ文字表記での文字数を数えると、(7文字)ー(3文字)ー(7文字)となります。ここで、ラテン文字表記での文字数を数えると、(7文字)ー(3文字)ー(9文字)となり、オスマニヤ文字表記での文字数とほぼ一致します。したがって、オスマニヤ文字はアルファベットであると考えることができ、実際そのように考えると次の対応によって整合します。

オスマニヤ文字 𐒂 𐒙 𐒆 𐒁 𐒖 𐒘 𐒕 𐒈 𐒌 𐒛 𐒉 𐒒
ラテン文字 t o d b a i y s g aa sh n

 このとき、短母音(V)と長母音(VV)が表記上区別されることが分かります。
 これにて表記規則の解明は一通り完了です。

Step.1-3 対応表の完成

 最後に、文字の対応表を完成させます。
 まずは、Step.1-2で分かった対応をもとに式1~10のオスマニヤ文字を一部ラテン文字に書き換えると、次のようになります。

ソマリ語(オスマニヤ文字・ラテン文字)
1 sadd𐒗𐒄
3 𐒏𐒝b iyo toban
4 𐒏𐒝𐒓
5 a𐒍a𐒇tan
6 a𐒍a𐒇 iyo 𐒏onton
7 a𐒍a𐒇 bo𐒎o𐒐 iyo shan iyo sidd𐒜tan
7 𐒇𐒚g
8 sidd𐒜d
8 bo𐒎o𐒐
9 sidd𐒜d bo𐒎o𐒐 iyo 𐒐i𐒄dan
10 𐒐abo 𐒏𐒚n iyo 𐒏𐒝b iyo 𐒐abaatan

 ここにある語と式1~10に出てくるソマリ語ラテン文字表記とを見比べることで、bo𐒎o𐒐=boqol、sidd𐒜d=siddeed、𐒏𐒝b=koob、𐒇𐒚g=rug、𐒏𐒝𐒓=koowが分かり、次の対応が得られます。

オスマニヤ文字 𐒎 𐒐 𐒜 𐒏 𐒝 𐒇 𐒚 𐒓
ラテン文字 q l ee k oo r u w

 さらに、設問(d)のJがオスマニヤ文字で書けることから、sadd𐒗𐒄=saddex、a𐒍a𐒇tan=afartanが分かり、𐒗=e、𐒄=x、𐒍=fが得られます。したがって、全ての文字の対応を得ることができたので次の対応表を作ることができます。

a(𐒖) e(𐒗) i(𐒘) o(𐒙) u(𐒚) aa(𐒛) ee(𐒜) oo(𐒝)
b(𐒁) d(𐒆) f(𐒍) g(𐒌) k(𐒏) l(𐒐) n(𐒒) q(𐒎)
r(𐒇) s(𐒈) sh(𐒉) t(𐒂) w(𐒓) x(𐒄) y(𐒕)

 これにてオスマニヤ文字の解読は完了です。

Step.2 ソマリ語数詞形態解析

 次に、ソマリ語の数詞の解析です。
 まず、式1~10のオスマニヤ文字をラテン文字に変えて改めて書き直すと、次のようになります。
(1) saddex + 𐒧 = 𐒡𐒠
(2) 𐒨 × sidded boqol = 𐒦𐒤𐒠𐒠
(3) 𐒡𐒡 × koob iyo toban = 𐒡𐒢𐒡
(4) koow + sagaal iyo sagaashan = boqol
(5) 𐒢𐒥 × afartan = 𐒨 × (A)
(6) 𐒣 × (B) = afar iyo konton
(7) afar boqol iyo shan iyo siddeetan × rug = rug
(8) sagaal × (C) = boqol + koob iyo toddobaatan
(9) siddeed boqol iyo lixdan = 𐒢𐒥𐒩 + lix boqol iyo koow
(10) labo kun iyo koob iyo labaatan = 2021 = (D)

Step.2-1 語構造まとめ

 まずは数詞の語構造をまとめます。ここでは大まかに4つの形が存在します。
 1つ目は、saddex、koow、boqol、afartanなどの、一単語の数詞そのままの形です。
 2つ目は、toddoba iyo sagaashan、koob
iyo toban、sagaal iyo sagaashanなどの、A iyo B-(an/on)の形です。
 3つ目は、sidded boqol、afar boqol iyo shan iyo siddeetanなどの、A boqol iyo Bの形です。
 4つ目は、labo kun iyo koob iyo labaatanなどの、A kun iyo Bの形です。

Step.2-2 基数の特定

 次に基数を特定します。基数をNとおいて、1以上N未満の整数(=基本数)を表す表現を探します。
 まず、iyo、boqol、kunは語構造の分析から基本数にはなりにくそうです。同様に、sagaashanなどの-an/onで終わる数詞の末尾の語も基本数にはなりにくそうです。また、式(7)より(afar boqol iyo shan iyo siddeetan ー 1) × rug = 0、即ちrug=0であるので、rugも基本数にはなり得ません。
 したがって、基本数となりそうな語を列挙してみると、saddex、sidded、koob、sagaal、afar、shan、lix、koow、labo、toddobaの10個となります。しかし、これらが全て異なる基本数を表すとするとN=11となってしまいあまり自然ではありません。しかし、これ以上削るのも難しそうですし、逆にboqolとkunがいづれも基本数であったとしてもN=13、iyoすら入れてもN=14なので、削りすぎということもなさそうです。したがって、これら10個の語の中に互いに異形態である組が存在すると予想できます。実際、koobとkoowはよく似ており、koobはiyoの直前、koowは語末にしか現れないので、koow iyo > koob iyoとすれば互いに異形態であると分かります。このときN=10となって上手く嵌ります。
 これにて基数の特定は一通り完了です。

Step.2-3 語構造と数表現の関係の特定

 最後に、Step.2-1で明らかにした語構造と数表現を結び付けていきます。
 まず、sagaashan=sagaal+anと解釈することで、A iyo B-(an/on) = 10A+B または10B+Aと分かります。ここで、sagaal = 7とすると、式(4) の左辺が(1~9の整数) + 77となるので、boqolが78~86の整数のどれかを表すことになってしまいます。しかし、toddobaatan=toddobaa+anという形態が存在するので、100未満の整数は全てこの形で表せるはずです。したがってこれはあまり自然ではなく、toddoba=7であると分かります。このとき、A iyo B-(an/on) = 10B+Aとなります。
 また、このとき、2021=labo kun iyo koob iyo labaatan=labo kun iyo (koob iyo labo+an)のように解釈することができるので、koow=1、labo=2とすることでA kun iyo B = 1000A + Bであると分かります。さらに、式(4)より、boqol = 1 + 99 = 100であると分かるので、同様にA boqol iyo B = 100A+Bであると分かります。
 より厳密に表現を記述できるように適切にA, Bの範囲を定めてやることで*3、次のようにまとめられます。
・100N = N boqol 1000N = N kun (2≤N≤9)
・10A+B = B iyo 10A (1≤A≤9, 1≤B≤9)
・100A+B = 100A iyo B (1≤A≤9, 1≤B≤99)
・1000A+B = 1000A iyo B (1≤A≤9, 1≤B≤999)
(ただし、10Nに対しては一般にNと10Nの間の厳密な関係を表現できない)
 これにてソマリ語の数詞形態解析は一通り完了です。

Step.3 オスマニヤ数字解読

 具体的な数に関する情報が少なすぎて数詞と数表現の対応が分からないので、次にオスマニヤ数字を解読していきます。

Step.3-1 文字の収集

 まずはオスマニヤ数字を収集します。オスマニヤ文字のときと同様、オスマニヤ数字で書かれた数を抜き出してまとめると、次のようになります。

オスマニヤ数字
- 𐒩𐒧
1 𐒧
1 𐒡𐒠
2 𐒨
2 𐒦𐒤𐒠𐒠
3 𐒡𐒡
3 𐒡𐒢𐒡
5 𐒢𐒥
5 𐒨
6 𐒣
9 𐒢𐒥𐒩

 これにより、オスマニヤ数字は𐒩、𐒧、𐒡、𐒠、𐒨、𐒦、𐒤、𐒢、𐒥、𐒣の10文字を用いると分かります。さらに、オスマニヤ数字での表記はこれらの文字を並べることによって行われているため、これらがアラビア数字を置き換えるように0~9に対応することが分かります。
 また、式(2)において、左辺は100の倍数なので、𐒦𐒤𐒠𐒠も100の倍数となり、𐒠=0及び数字が左横書きであることが分かります。このとき、𐒩=9、𐒧=7となります。

Step.3-2 対応表の完成

 最後に、オスマニヤ数字とアラビア数字、ソマリ語の基本数詞と数の対応を完成させます。
 まず、式(1)より、𐒡0 < 9 + 9 =18なので、𐒡0=10が分かり、𐒡=1が分かります。このとき、saddex = 10 - 7 = 3となります。また、式(3)より、1𐒢1は11の倍数になるので、𐒢=2が分かり、さらにkoob iyo toban = 11より、toban=10が分かります。
 このとき、lixban = lix + an = 10 × lixと解釈すると、式(9)において右辺の筆算を考えることで、lix + 2 = siddeed、lix = 𐒥 + 1が分かります。lix, siddeed, 𐒥∈{3, 4, 5, 6, 8}に注意すると、(lix, siddeed, 𐒥)=(4, 6, 3)または(6, 8, 5)となります。
 ここで、(lix, siddeed, 𐒥)=(4, 6, 3)とすると、式(3)の両辺を100で割ることで、𐒦𐒤 = 𐒨 × 6となりますが、𐒦, 𐒤, 𐒨∈{4, 5, 6, 8}に注意すると、これを満たす数の組(𐒦, 𐒤, 𐒨)は存在しないことが分かります。したがって、(lix, siddeed, 𐒥)=(6, 8, 5)であり、同様に考えることで、(𐒦, 𐒤, 𐒨)=(4, 8, 6)または(6, 4, 8)が分かります。ここで、式(5)より、25 × afartanは𐒨の倍数で、かつafar∈{4, 5}に注意すると、(𐒦, 𐒤, 𐒨)=(6, 4, 8)が分かります。また、siddeetan = siddeed + anと解釈することで、siddeetan=80となります。さらに、消去法により𐒣=3、shan=5が分かります。また、設問(c)のGより、soddon = saddex + on = 30が分かり、消去法によりkonton=50が分かります。
 したがって、次のような対応表を作ることができます。 

0(𐒠) 1(𐒡) 2(𐒢) 3(𐒣) 4(𐒤)
5(𐒥) 6(𐒦) 7(𐒧) 8(𐒨) 9(𐒩)
N= 1 2 3 4 5 6 7 8 9 100
N koow labo saddex afar shan lix toddoba sidded sagaal boqol
10N toban labaatan soddon afartan konton lixban toddobaatan siddeetan sagaashan kin

Step.4 解答

 必要な情報が出揃ったので、解答を書いていきます。*4今回は答え以外の追加説明が不要となっているので、設問への答えのみ書くことにします。
設問

(a)
(A) 𐒡𐒢𐒥
(B) 𐒡𐒨
(C) 𐒡𐒩
(D) 𐒢𐒠𐒢𐒡

(b)
(1) 3 + 7 = 10
(2) 8 × 800 = 6400
(3) 11 × 11 = 121
(4) 1 + 99 = 100
(5) 25 × 40 = 8 × 125
(6) 3 × 18 = 54
(7) 485 × 0 = 0
(8) 9 × 19 = 100 + 71
(9) 860 = 259 + 601

(c)
E. afar boqol iyo koow
F. siddeed kun iyo saddex iyo afartan
G. kun iyo boqol iyo soddon

(d)
H. 𐒏𐒝𐒁 𐒘𐒕𐒙 𐒂𐒙𐒆𐒆𐒙𐒁𐒛𐒂𐒖𐒒
I. 𐒈𐒖𐒌𐒛𐒐 𐒏𐒚𐒒 𐒘𐒕𐒙 𐒉𐒖𐒒 𐒁𐒙𐒎𐒙𐒐 𐒘𐒕𐒙 𐒐𐒘𐒄
J. 𐒈𐒖𐒆𐒆𐒗𐒄 𐒘𐒕𐒙 𐒖𐒍𐒖𐒂𐒖𐒒

*1:もしも読み分け不可能であるとすると、オスマニヤ数字で書かれた数をオスマニヤ文字で書かれた数としても解釈できることになりますが、その場合オスマニヤ数字の表記規則やソマリ語の命数法を明らかにすることが現実的に不可能となるため、問題を解くことができなくなります。

*2:ビルマ文字ビルマ数字、タイ語とタイ数字などはこれと同様の書き分けを行っています。他にはヘブライ文字ヘブライ数字やギリシャ文字ギリシャ数字イオニア式記法などは文字を共有しつつも記号を付けて書き分けます。しかし、ラテン文字とローマ数字など、外見上書き分けを行わないものも比較的稀ですが存在はします。

*3:単に100A+B = A boqol iyo Bと書いてしまうと、100 = koow boqol iyo rug みたいなことができてしまうので、こういったことをなくすためにA, Bに範囲を決める必要があります。

*4:文字も数詞も設問に答えるための作業量がなかなかに多いのですが、今回それらが悪魔合体しているので非常につらいです。作問者人の心ないんか

APLO2023-2 クテナイ語 解説

Dzień dobry. MPIです。APLOが近くて苦しいですが、今回も言オリ解説をしていこうと思います。
今回はAPLO2023より第2問、クテナイ語の問題です。早速始めていきましょう!

問題の出典

APLO2023-2 Ktunaxa(クテナイ語) by Jerome Jochems
https://aplo.asia/booklets/aplo-2023-prob.ja.pdf

Step.1 形態素分割

 まずはクテナイ語の語句1~17および設問(a)の「弱い」を形態素に分割していきます。以下に分割の手順の一例を示します。
(1) 語句1~8から接頭辞ʔa · k(ʔa ·, ʔa ·q)を分離
(2) 語句14, 15より、形態素nanaを語句8, 9, 13から分離
(3) 語句8の分離されて残った形態素namを語句2, 4から分離
(4) 語句7, 16より、形態素sanを語句11, 17から分離
(5) 語句4, 11より、形態素niを語句10, 11, 12, 「弱い」から分離
(6) 語句12, 「弱い」を比較して、形態素ǂitを分離
(7) 語句3, 10より、形態素sukを語句10から分離
(8) 語句6, 9より、形態素¢maḱを語句9, 「弱い」から分離
(9) 語句2, 5より、形態素nuqǂuを語句5, 13から分離
以上より、次のように形態素に分割できます。*1

語句 クテナイ語
1 ʔa·k-ǂu
2 ʔa·k-ǂaḿ-nam
3 ʔa·k-iǂmiyit
4 ʔa·k-iǂwi·-nam
5 ʔa·k-nuqǂu-ǂaḿ
6 ʔa·k-wum
7 ʔa·q-ǂa
8 ʔa·-qat-nana-nam
9 ¢maḱ-wum-nana
10 ǂa=suk-iǂmiyit-ni
11 ǂa=san-iǂwi·-ni
12 ǂit-ǂiǂ-ni
13 kam-nuqǂu-qat-nana
14 maḱ
15 maḱ-nana
16 san-ǂa
17 san-iǂmiyit
弱い ǂit-¢maḱ-qa·-ni

 これにて形態素分割は一通り完了です。

Step.2 形態素追跡

 次に各形態素の意味や役割を調べていきます。幸いなことに今回は語句"ǂit¢maḱqa·ni"が「弱い」を意味するということが分かっているので、これを出発点として追跡していきます。

Step.2-1 語句「弱い」の解析

 まず、「弱い」の語構造を考えます。語句12と「弱い」を比較すると、どちらも"ǂit~ni"の構造を取っていることが分かりますが、仮に"~"の部分が単に文法的機能のみを表すとするとa~qの内に「弱い」と大いに意味の関連する語句が含まれることになります。しかし、そのようなものは見受けられないので、"~"の部分は何らかの意味を表す形態素が入ると考える方が自然です。そこで「弱い」を「強くない」の意訳であると解釈すると、"¢maḱ-qa·"の部分が「強い」を表すと考えることができ、「弱い」の語構造が次のようになっていると分かります。

弱い=(接頭辞)-強い-(接尾辞)

Step.2-2 形態素の追跡

 "¢maḱqa·"=「強い」という対応が分かったので、実際に追跡を行っていきます。
(1) "¢maḱqa·"が接頭辞化すると"¢maḱ"になるものとすると、語句9と語句fが対応することが分かります。このとき"wum"=「腹」、"nana"=「小さい」となり、語句6と語句hが対応することが分かります。
(2) 形態素nanaは語句8, 13, 15に含まれ、うち語句8, 13はさらに"qat"を共通して含みかつそれが語根であることに注意すると、"qat"=「尾」として語句8と語句m、語句13と語句aが対応すると考えられます。このとき"nam"=「誰かの」であり、また「若く白い尾の鹿」が「白い-尾-小さい」の意訳であると解釈することで、"kamnuqǂu"=「白い」となります。
(3) 形態素namは語句2, 4に含まれますが、「誰かの~」という語句は語句g, oしかないので、ちょうどそれぞれこのどちらかが対応します。ここで、語句5の直訳が「白い-(頭/心臓)」となることに注意すると、語句5は語句lと対応し、さらに語句2と語句o、語句4と語句gが対応することが分かります。このとき、"ǂaḿ"=「頭」、"iǂwi·"=「心臓」となります。
(4) 形態素maḱは単純語となり"maḱ"、"小さいmaḱ"がいづれも語句b, c, d, e, i, j, k, pの内のどれかと対応することから、"maḱ"=「骨」が最も適切で語句14と語句b、語句15と語句pが対応することが分かります。
(5) "ǂit¢maḱqa·ni"が「強くない」と直訳されることから、"ǂitǂiǂni"も「ǂiǂ-ない」のような形で直訳されるものと考えられるので、語句12と語句jが対応すると考えられます。このとき、"ǂiǂ"=「目」となり、頻度解析により"ni"が形容詞的な単語を作る機能を持つことが分かり、したがって"ǂit"=「ない」となります。
(6) 語句10, 11はそれぞれ語句e, nと対応するので、比較によって"ǂa"=「再び」となります。語句11は形態素iǂwi·を含むので、体の内部と関連の深い語句eが対応し、語句10は語句nが対応すると分かります。
(7) 語句10と語句11の比較により、形態素iǂmiyitは気象に関連する意味を持っていると予想できます。さらに、怒っている=san-心臓-(形容詞化)より、形態素sanは否定的な意味を持っていると予想できます。したがって、語句17と語句cが対応していることが分かり、このとき"san"=「悪い」、"iǂmiyit"=「空」となり語句3と語句q、語句16と語句kが対応すると分かります。このとき、"ǂa"=「内側」が最も適することになり、語句7と語句iが対応すると分かります。したがって消去法で語句1と語句dが対応することが分かり、"ǂu"=「雪」となります。
(8) 語句10に含まれる形態素sukの意味が分からずに残りましたが、設問(e)の22が翻訳できることから、"suk"=「良い」としてよいでしょう。
 これにて形態素追跡は一通り完了です。

Step.3 語構造まとめ

 最後に、答案には必要ありませんが、語構造についてまとめておきましょう。
 まずは形態素の順序を振り返っておきましょう。形態素の順序は次のようになっています。

(接頭辞)-(名詞)-(接尾辞)

 次に接頭辞や接尾辞の構造を調べていきましょう。

接頭辞構造

 接頭辞はʔa · k(=不詳), ǂa(=再び), ǂit(=否定), 形容詞の四種類があり、複数種類付く場合はこの順に並びます。

接尾辞構造

 接尾辞はnana(=小さい), nam(=誰かの), ni(=形容詞化)の三種類があり、複数種類付く場合はこの順に並びます。
 これにて語構造まとめは完了です。

Step.4 解答

 必要な情報が出揃ったので、解答を書きます。今回は答え以外の追加説明が不要となっているので、設問への答えのみ書くことにします。また、不詳となっている接頭辞ʔa · kは完全に省略します。

設問
(a)

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17
d o q g l h i m f n e j a b p k c

(b)
ǂa: 「再び」、「内側」
(c)

設問 形態素分割 直訳
18 (不詳)-尾-おなか-内側 内に尾やおなかを持つもの
19 再び-ない-雪 再び雪がない

(d)

設問 形態素分割
20 ない-尾-(形容詞化) 尾がない
21 (不詳)-(心臓)-(小さい) 小さい心

(e)
22. sukwumnam
23. ǂiǂ*2

余談

 ここからは完全に余談なのですが、クテナイ語のアルファベットは次に示すような少々特殊なものが用いられています。
・ḱ: kの放出音
・ḿ: mの咽頭化音
・¢: 日本語の「つ」の子音
・ǂ: lを発音する口でsを出したような音(モンゴル語のл)
これについて調べようと思っていた時に知ったのですが、意外なことにクテナイ語は学習環境が比較的整っており、インターネット上などでも英語さえ分かればある程度学習することができます。ここにいくつか参考となるサイト等を貼っておきますので、興味のある方は一度勉強してみてもいいと思います。
(クテナイ語の発音についての動画)
youtu.be
(クテナイ語の辞書)
www.firstvoices.com
(クテナイ語のpdf集)
www.aqamnikschool.com
(クテナイ語学習用アプリ)

Ktunaxa Grammar App

Ktunaxa Grammar App

  • Christopher P Horsethief
  • 教育
  • 無料
apps.apple.com

 それではまた次の解説で会いましょう、hu ¢xaǂ ǂa ʔupxnisni!

*1:実際にはこの分割は正確ではないですが、これでも答えにたどり着くことはできますし、必要ならば後で修正するだけなので問題はありません。

*2:接頭辞を付ける場合、ʔa·kの一変種ʔa·kaqが付いて"ʔa·kaqǂiǂ"となるらしいです。誰が分かんねん、てかʔa·kの変種がʔa·とʔa·q以外にもあるのが非自明では。

APLO2023-5 コンバイ語 解説

Dzień dobry. MPIです。記念すべき(?)2つ目の解説です。
今回はAPLO2023より第5問、コンバイ語の問題です。早速始めていきましょう!

問題の出典

APLO2023-5 Kombai(コンバイ語) by Farhan Ishraq, Jerome Jochems(consultant: Lourens de Vries)
https://aplo.asia/wp-content/uploads/2023/04/aplo-2023-prob.ja_.pdf

Step.1 軽い頻度解析

 何はともあれ、まずは頻度解析です。データ内のコンバイ語の文で複数回出てくる単語をリストアップしてみましょう。

コンバイ語 出てくる文
khuro 1, 5
leikhe 2, 4
dodo 3, 12
gwari 3, 7
lei 3, 10, 14
la 4, 15
a 7, 10, 12, 15

これらをその日本語訳と見比べることで、次の対応が分かります。

コンバイ語 日本語
dodo
gwari ヘビ
la
a

 これにて軽い頻度解析は一通り完了です。

 さらにここで得られた情報から、次のように語順を定めることができます。

B A V: AはBにいる/ある

Step.2 名詞句解析

 次に名詞句解析です。まずは「PのN」という形をした所有表現から調べていきましょう。データ内の名詞句の中から、単純な所有表現を抜き出してリストアップすると、次のようになります。*1

コンバイ語 日本語 出てくる文
nare 私の父 2
namomo 私のおじ(pl) 5
nane 私の鳥(pl) 11
namiyo 私の子ども 13
naramu 私のキュウリ 14
khemakhü 彼の犬 6
areya la 父の妻 4
elo khuro 鳥のジャングル 5
dodofa gwari 木のヘビ(pl) 7
afa makhü 家の犬(pl) 8
khalakha amiya ヤムイモのミミズ 10
dodofa a 木の家 15

 これを見ると、所有表現は雑に書くと次のような形で表現されることが分かります。
・私のN: na-N
・彼のN: khe-N
・PのN: P-(接辞) N (P ≠ 私、彼)
 ここで、「父」と「鳥」はそれぞれ"are"、"e"のはずですが、「私の」が付くと"nare"、"nane"となっています。これについては音韻規則na-a > na、na-V > nanV (V ≠ a)を立てることで説明ができます。おそらくは「彼のN」についても同様の規則があるでしょう。*2
 では、P ≠ 私、彼のときのPに付く接辞について調べていきましょう。まずは、現れる接辞とそのときのP、Nをリストアップしていきます。

接辞 P N
fa おじ、木、家 友人(pl)、ヘビ(pl)、犬(pl)、家
na ヘビ
ya 父、友人 妻、家
ye 父、ミミズ 鳥、果物
lo ジャングル
la
kha ヤムイモ ミミズ

 これを見ると、子音が同じ接辞ではPが、母音が同じ接辞ではNが凡そ共通であることが分かります。なので、例えばS={おじ、木、家}、T={妻}、U={父、友人、ミミズ}、V={鳥}、W={ヤムイモ}、X={友人、ヘビ、犬、家、妻、庭、ミミズ}、Y={鳥、果物}、Z={ジャングル}などと置いて

N\P S T U V W
X fa na ya la kha
Y fe ne ye le khe
Z fo no yo lo kho

のように書くこともできますが、如何せんこれでは冗長が過ぎるので、もう少しスマートな規則を立てたいところです。*3
 まず、子音については各Pに対応することから、もともとその子音が名詞に含まれるものとして「独立して用いるときに語末子音が落ちる」というように説明することができます。
 次に母音です。まずX、Y、Zの名詞をコンバイ語に直すと次のようになります。
X={nay、gwariC、makhüC、af、lan、yarimoC、amiyay}
Y={el、edoloC}
Z={khuroC}
 これを見ると、X、Y、Zに属する各名詞はそれぞれ第一音節の母音が一致していることが分かります。したがって、ここでは母音調和(逆行)が起きていると説明することができます。

 これにて名詞句解析は一通り完了です。

Step.3 動詞解析

 次に動詞解析です。まず、頻度解析などによって次のように形態素に分割していきます。

コンバイ語
1 ba-bama-no
2 lei-khe
3 lei
4 lei-khe
5 le-no
6 le-khe
7 lei-no
8 le-no-kho
9 ba-kha
10 lei
11 ba-no-kho
12 le
13 lei-leima
14 lei
15 ba-bama-kha

 次に、各形態素の役割を調べていきます。

Step.3-1 語幹解析

 まずは語幹です。文3、10、12、14ではおそらく語幹がそのまま使われていると考えることができるので、それを用いると語幹は"ba"、"lei"、"le"であると考えられます。
 使い分ける基準は何でしょうか。ある文法範疇に依存するとしても、三つに分かれるようなことは考えにくいですし、音韻規則によって定まるとするのも無理がありそうです。
 そこで、これが「状況」を表していると考えるとうまくいきます。具体的には次のような状況が対応します。

語幹 状況
ba 座っている
le 立っている
lei 寝そべっている

 これにて語幹解析は一通り完了です。

Step.3-2 疑問形態素解析

 次は疑問です。疑問文は2、4、6、8、11、15ですが、これらに共通する形態素は"khV"です。逆にこれら以外の文では"khV"が含まれないので、これが疑問を表しているとしてよいでしょう。
 また、Vはa、e、oの三通りがありますが、これはStep.2での結果を踏まえると、母音調和(順行)が起きていると説明することができます。

 これにて疑問形態素解析は一通り完了です。

Step.3-3 数形態素解析

 次は数です。主語が複数である文は1、5、7、8、11ですが、これらに共通する形態素は"no"です。逆にこれら以外の文では"no"が含まれないので、これが主語複数を表しているとしてよいでしょう。

 これにて数形態素解析は一通り完了です。

Step.3-4 習慣形態素解析

 最後に習慣です。これらは"bama"、"lema"、"leima"と表されることが分かりますが、一見これらは構造が分かりにくいです。しかし、よく見ると、これらは"ma"が共通していることから、"(語幹)-ma"のように説明することができます。

 これにて形態素解析は全て完了です。また、形態素の並ぶ順序は次の通りです。

(語幹)-(習慣)-(数)-(疑問)

Step.4 母音調和規則

 最後に母音調和の規則をもう少ししっかりと書き下しておきましょう。
 まず、ここまでの議論で、aはaに、eはeとeiに、oはoに同化していることが分かりますが、uやüに同化した場合はどうなるのでしょうか。
 実は、aは中舌母音、eは前舌母音、oは後舌母音であることから、次のように規則を一般化することができます。*4
・a: 中舌母音に同化
・e: 前舌母音に同化
・o: 後舌母音に同化
 uは後舌、üはiと同じ前舌であることから、それぞれ同化するとo、eとなります。

 これにて母音調和規則の書き起こしは完了です。

Step.5 解答

 必要な情報が出揃ったので、解答を書いていきます。

規則
文構造
B A V: 「AはBにいる/ある」

名詞句構造
名詞の語末子音が脱落した形をN*と書く。
・N: N*
・私の/彼のN: na/kha-N*
・PのN: P-V(逆行調和) N*
音韻規則
・CV'-V > CVnV(V' ≠ V)
・CV'-V > CV(V' = V)

動詞構造
(語幹)-(習慣)-(数)-(疑問)
語幹

ba 座っている
le 立っている
lei 寝そべっている

習慣: (語幹)-ma
主語複数: no
疑問: khV(順行調和)

母音調和
・a: 中舌母音(a)に同化
・e: 前舌母音(i, e, ü, ei)に同化
・o: 後舌母音(o, u)に同化

設問
(a)
16. 子ども(複数)は水の庭にいる。
17. 彼の妻のミミズはいつも私の水(の中)にいるか?
(b)
18. 子どもはいつも私の木にいる。 [立ちながら]
19. 私の妻はいつもそこにいるか? [座りながら]
(c)
20.
(i) 彼の友人(複数)は彼のジャングルにいる。
(ii) 彼の家(複数)は彼のジャングルにある。
(d)
21. Khedolo khenamiya leino.
22. Areyo dodo lekhe?
23. Nayo khuro na leno.
24. Khuro namakhü lelemakha?

*1:「P1のP2のN」のような名詞句も存在するのですが、この場合P2に多くの情報が含まれ過ぎてややこしくなるので一度除外して考えます。

*2:実際、文14の"khela"(彼の鳥の~)と文9の"khenareye"(彼の父の~)を見ることで正当化することができます。

*3:実際の試験ではこのような記述でも正しければ問題はないですが、これで全てを尽くすのは難しいことの方が多いです。

*4:この問題では母音の詳細な特徴については触れられていませんが、"Forms and functions in kombai, an awyu language of Irian Jaya"(Lourens de Vries, 1993)などを参照すると実際にこうなっていることが確かめられます。

APLO2023-4 イナンワタン語 解説

Dzień dobry. MPIです。Twitterのフォロワーの人に触発されて、言オリ解説を始めることにしました。
今回はAPLO2023より第4問、イナンワタン語の問題です。早速始めていきましょう!

問題の出典

APLO2023-4 Inanwatan(イナンワタン語) by Kazune Sato(佐藤和音)
https://aplo.asia/wp-content/uploads/2023/04/aplo-2023-prob.ja_.pdf

Step.1 軽い頻度解析

 何はともあれ、まずは頻度解析です。データ内のイナンワタン語の文で複数回出てくる単語をリストアップしてみましょう。

イナンワタン語 出てくる文
idabe 1, 14
buquro 4, 9
maroqo 6, 12
ewai 7, 17
aga 8, 10, 13, 14, 15, 16, 17
qido 8, 16
qeqake 9, 16
medo 10, 13

これらをその日本語訳と見比べることによって、次の対応が分かります。

イナンワタン語 日本語
idabe タカ
buquro タロイモ
maroqo
P aga N PのN
qido 母親
qeqake キバタン
medo ヘビ

これにて軽い頻度解析は一通り完了です。

Step.2 構文解析

 次に構文解析です。まず、データ内の文は動詞の種類により大きく4種類に分けることができます。順に見ていきましょう。

  • Case.1 自動詞文

 まずは「(主語)が(動詞)する」という形の自動詞文です。文1, 2, 3, 6, 12, 13,がこれに該当します。
 これらの語順は文1, 6, 13より直ちに、(主語) (動詞)の順であることが分かります。

  • Case.2 他動詞文

 次は「(動作主)が(被動者)を(動詞)する*1」という形の他動詞文です。文4, 8, 9, 10, 15がこれに該当します。
 これらの語順は文4より(被動者) (動詞)の順であることがわかり、また文9より(動作主) (目的語)の順であることがわかるので、結局(動作主) (被動者) (動詞)の順であるとわかります。
 また、文4, 10より、主語や目的語などが代名詞の場合、省略されることが分かります。

  • Case.3 二重他動詞文

 次は「(動作主)が(受け手)のために(対象)を(動詞)する*2」という形の二重他動詞文です。文5, 11, 16がこれに該当します。
 これらの語順は文16より直ちに、(動作主) (受け手) (動詞)の順であることが分かります。どの場合も省略されているので、対象がどこに入るかは不明ですが、現時点ではこのままにしておきましょう。

  • Case.4 「~のものだ」文

 最後に「(主語)は(所有者)のものだ」という形の文です。文7, 14, 17がこれに該当します。
 これらの語順は、まず文14より、主語が最初に来て、そのあとに所有者が来ると分かります。さらに文14の"qotoqowaredaso"が"qotoqoware-daso"、文17の"qidodawo"が"qido-dawo"になることに着目することで、結局(主語) (所有者)-daso/dawoの順となることが分かります。
 2種類の接辞が出てきてしまいましたが、使い分けの基準が不明なので、Case.3と同じく現時点ではこのままにしておきましょう。
 
 また、文2, 15より、構文によらず、場所を表す単語は主語・動作主と動詞の間に入ることが分かります。場所、被動者、受け手、対象の並ぶ順番は現時点では不明ですが、現時点ではこのままにしておきましょう。
 
 これにて構文解析は一通り完了です。

Step.3 名詞解析

 次に名詞解析です。

Step.3-1 所有表現

 まずは所有の表現からやっていきましょう。
 まず、先に示したように、所有者が一般名詞の場合、「(所有者)の(所有対象)」は"(所有者) aga (所有対象)"と表されます。
 次に、所有者が代名詞の場合です。ひとまず所有者ごとに所有対象のイナンワタン語訳をリストアップしていきましょう。

所有対象\所有者 一人称単数 三人称単数
息子 naqotoqoware qotoqoware
maroqo
母親 naqido qido

 これを見ると、語構造は(人称)-(所有者)であり、人称接辞は一人称単数が"na-"、三人称単数が無標であると分かります。
 これにて所有の表現は一通り完了です。

Step.3-2 格

 続いて、格をやっていきましょう。
 まず、構文解析より、このデータには「主語(S)」、「動作主(A)」、「被動者(P)」、「受け手(R)」の文法格の情報が含まれていて、それに加えて「~で」を表す場所格が存在します。それぞれの格の標示の仕方を順に見ていきましょう。

  • Case.1 主語、動作主、被動者の格標示

 まずは主語(S)、動作主(A)、被動者(P)からです。
 まず、文3, 16より息子を意味する"qotoqoware"は主語でも動作主でも形態が変わらず、さらにStep.3よりこれは無標です。また、妹、母親を意味する単語も文8, 12より主語が無標なので、主語は無標としてよいでしょう。
 続いて被動者も調べたいのですが、これは文4, 9の"buquro"しかデータがなく、さらにこの単語は他の文では使われていないようなので、現時点では不明です。よってそのままにしておきましょう。

  • Case.2 受け手の格標示

 次に受け手(R)の格標示です。
 文13, 16と主語が無標なことより、ヘビを意味する"medo"は受け手のときに接尾辞"-ra"が付くと分かります。また、父親を意味する単語も文11より受け手のときに接尾辞"-ra"が付くので、受け手は接尾辞"-ra"によって標示するとしてよいでしょう。

  • Case.3 場所格の格標示

 次に場所格の格標示です。
 文15と設問(a)の文18より、家を意味する"meqaro"が場所格のときに接尾辞"-wo"が付くと分かります。また、川を意味する単語も文2より場所格のときに"-wo"で終わっているので、場所格は接尾辞"-wo"によって標示するとしてよいでしょう。

 これにて格は一通り完了です。

Step.4 指示語解析

 次に指示語です。ここでは近称と遠称の指示語があるので、それぞれデータ内に出てくる形態をリストアップしてみましょう。

種類 形態
近称 ewai, ewaidaga, esai
遠称 osoi, owoidaga

 これらより、遠称と近称は互いに母音を変えたものであることが分かります。
 さらに、指示語の形態には次のような種類があることが分かります。

2文字目\接尾辞 なし -daga
s esai, osoi (esaidaga, osoidaga)
w ewai(, owoi) ewaidaga, owoidaga

 2文字目、語尾それぞれについて、使い分ける条件を見ていきましょう。

  • Case.1 2文字目の使い分け

 まずは2文字目の使い分けからです。まずはそれぞれについて、掛る名詞をリストアップしていきましょう。

2文字目 掛る名詞
s qekake, idabe
w ato, medo, taragaro, mesidao

 これを見ると、語末の母音がきれいに分かれていることがわかるでしょう。よって、掛る名詞の語末がeなら2文字目がsで、語末がoなら2文字目がwであるとわかります。
 ところで、Step.2のCase.4で所有者につく接辞の使い分けが「不明」だとしましたが、ここでの結果をヒントにすると、所有者の語末がeなら"-daso"で、語末がoなら"-dawo"であることが分かります。実際、データ内の"buqaritawo-dawo"、"qotoqoware-daso"、"qido-dawo"はどれもこの規則を満たします。
 さらに、Step.3で「不明」だとした被動者の格標示も、ここでの議論より名詞の語末はeかoの2通りしかないと考えられることと、文4, 9の被動者が"buquro"であることから、無標となることが分かります。

  • Case.2 接尾辞の使い分け

 次に接尾辞の使い分けです。まず、2文字目の使い分けとは独立であることから、名詞の種類による使い分けではないことが分かります。ではどのように使い分けるのでしょうか。
 試しに、掛る名詞の格を考えてみましょう*3。それぞれについて、掛る名詞の格をリストアップしていきます。

接尾辞 掛る名詞の格
なし 主語、動作主
-daga 所有者

 これを見ると、やはりきれいに分かれていることが分かるでしょう。よって、接尾辞の使い分けは格によって行われると分かります。さらに、"aga"を所有者接語と看做すことで、格の有標性と接尾辞の有無が対応することが分かります。これによって、データにない被動者、受け手、場所格に対応する形態がどちらかも分かります。
 また、同時に、接尾辞"-daga"が付くと前置修飾、そうでないときは後置修飾となることが分かります。
 
 これにて指示語は一通り完了です。

Step.5 動詞解析

 次に動詞形態です。

Step.5-1 形態素分割

 まずはデータ内の動詞を形態素に分割していきます。まずは出現回数の多い「叩く」と「かむ」を語根とする動詞をそれぞれリストアップしていきます。

  • 叩く
イナンワタン語
4, 15 obosabe
16 meriobobi
  • かむ
イナンワタン語
5 meraqaqabi
8 meriqaqabe
9 meqaqabi
11 naqaqasabi

 これを見て、形態素に分割していきます。
 例として、「かむ」の各動詞を語根とそれ以外の部分に分割してみます。
 まず、文5の動詞と文6の動詞を見比べると、共通部分は"me"と"qaqab"のみです。しかし、文11の動詞に"me"は現れないので、語根となるのは"qaqab"かその一部です。ところが、文5, 6, 9, 11のすべての動詞で"qaqa"が共通なのでこれが語根です。
 同様の操作によってこれらの動詞を形態素に分割してみると、次の通りです。

イナンワタン語
4, 15 obo-sa-be
5 me-ra-qaqa-bi
8 me-ri-qaqa-be
9 me-qaqa-bi
11 na-qaqa-sa-bi
16 me-ri-obo-bi

 さらに、これをヒントにして他の動詞も形態素に分割することができます。

イナンワタン語
1 me-qe-bi
2 na-sa-bi
3 ne-sa-bi
6 mo-oote-be
10 me-see-bi
12 me-ra-be
13 noo-sa-be

 これにて形態素分割は一通り完了です。

Step.5-2 時制形態素解析

 ここからは各形態素の役割を調べていきます。まずは時制です。
 時制は現在と未来があるので、それぞれの時制についてイナンワタン語の動詞をリストアップしていきましょう。

  • 現在時制
イナンワタン語
1 me-qe-bi
5 me-ra-qaqa-bi
6 mo-oote-be
8 me-ri-qaqa-be
9 me-qaqa-bi
10 me-see-bi
12 me-ra-be
16 me-ri-obo-bi
  • 未来時制
イナンワタン語
2 na-sa-bi
3 ne-sa-bi
4, 15 obo-sa-be
11 na-qaqa-sa-bi
13 noo-sa-be

 それぞれ見比べてみると、未来時制では"sa"が共通していて、現在時制では文6以外で"me"が共通しています。さらに、文6についても音韻規則me > mo / _oを立てることによって"me"が現在時制を表すとしてよいでしょう。
 これにて時制形態素解析は一通り完了です。

Step.5-3 人称形態素解析

 次に人称です。
 主語、動作主はデータ内ではすべて三人称単数なので、被動者の人称をみていきます。一人称単数、一人称複数、三人称単数があるので、それぞれの人称についてイナンワタン語の動詞をリストアップしていきましょう。

  • 一人称単数
イナンワタン語
5 me-ra-qaqa-bi
11 na-qaqa-sa-bi
  • 一人称複数
イナンワタン語
8 me-ri-qaqa-be
16 me-ri-obo-bi
  • 三人称単数
イナンワタン語
4, 15 obo-sa-be
9 me-qaqa-bi
10 me-see-bi

 それぞれ見比べてみると、一人称単数では"bi"が、一人称複数では"ri"が共通していて、三人称単数では共通する形態素がありません。よってこれが人称形態素だとしてしまいたいところですが、よく見てみると、"bi"は被動者が一人称単数でない場合も含まれているので、これは人称形態素ではなさそうです。
 では一人称単数の被動者はどのように標示されるのでしょうか。語根、時制以外の部分を見てみると、文5では"ra"、文11では"na"しか残らず、共通する形態素がないようにも見えます。しかし、音韻規則r > n / #_を立てることによって、"ra"が共通する形態素だとみることができ、実際これが人称形態素であることも確認できます。
 これにて人称形態素解析は一通り完了です。
 ところで、Step.3-1で扱った所有表現での人称接辞をよく見ると、ここでの人称形態素と一致していることが分かります。よって、人称を表す接辞はすべて共通しているものと看做すことができると分かります。

Step.5-4 残りの形態素解析

 最後に残った形態素を解析していきます。現時点で役割の不明な形態素は"bi"と"be"のみです。これは何を表すのでしょうか。
 現時点で動詞に主語の情報が皆無なので、試しに主語、動作主を見てみることにしましょう。

主語、動作主
bi idabe, qotoqoware, qeqake osoi, ewaidaga medo aga qide, qekaqe aga qotoqoware, (彼)
be maroqo, qibiro aga qido, peraqote aga maroqo, naqido aga medo, qido, (彼女)

 これを見ると、きれいに名詞の語末の母音が分かれています。しかし、名詞の語末だけでは彼と彼女が区別できません。そこで、語末がeの名詞が男性名詞、語末がoの名詞が女性名詞であるとしてみると、主語の性別が男性のとき"bi"、女性のとき"be"を使うと分かります。
 これにて形態素解析はすべて完了です。また、形態素の並ぶ順序は次の通りです。

(現在時制)-(被動者人称)-(語根)-(未来時制)-(主語・動作主性)

Step.6 解答

 必要な情報が出揃ったので、解答を書いていきます。
 この記述では、主語と動作主をまとめてS、被動者をP、指示代名詞をD、動詞をV、名詞全般をNと表現します。また、文法構造の説明を簡単にするため、文構造は自動詞文、他動詞文、二重他動詞文をまとめて書きます。

規則
文構造

  • S P V : 「SがPをVする」
  • S T (ただしT = N-da-(Sの性)-o) : 「SはTのものだ」

「~のために」、「~で」を意味する語はSとVの間に置く。

名詞構造
(語幹)-(性)-(格)

  • 格: "-ra": 「~のために」、"-wo": 「~で」、"=aga": 「~の」

指示語

  • N D (Nが無標格のとき)
  • D-daga N (Nが有標格のとき)

ただしD = e-(Nの性)-ai 「これ」、o-(Nの性)-oi 「あれ」

所有

  • (所有者) (所有対象) (所有者が一般名詞のとき、所有者は所有格)
  • (所有者の人称)-(所有対象) (所有者が代名詞のとき)

動詞構造
(現在時制)-(Oの人称)-(語根)-(未来時制)-(Sの性)

  • 時制: "me": 現在時制、"sa": 未来時制
  • 音韻規則: me>mo/_o

人称
 "ra": 一人称単数、"ri": 一人称複数、∅: 三人称複数

  • 音韻規則: r>n/#_

Nの中 D, Tの中 Vの中
男性 e s bi
女性 o w be

設問
(a)
18. この家は私の父親のものだ。
19. ネズミがこの魚のために話すだろう。
20. 彼が私たちの母親のオス豚を叩く。/ 私たちの母親のオス豚が彼を叩く。
21. タカがあの悪魔の家で落ちる。
(b)
22. Bido merebe.
23. Peraqote osoi niqotoqowarora niobosabi.
24. Buquro owoi maroqedawo.
25. Esaidaga mesidae aga qide owoidaga murowo moobobi.
26. Buqaritawe aga qibiro taragarowo meraseebe.

*1:見通しをよくするために、「主語」・「目的語」ではなく「動作主」・「被動者」と表現しています

*2:見通しをよくするために、「間接目的語」・「直接目的語」ではなく「受け手」・「対象」と表現しています。

*3:一見唐突に見えますが、イタリア語やポーランド語などの形容詞に見られる性・数・格の一致という現象を知っていればむしろ自然な発想に見えるでしょう。