Dzień dobry. MPIです。記念すべき(?)2つ目の解説です。
今回はAPLO2023より第5問、コンバイ語の問題です。早速始めていきましょう!
問題の出典
APLO2023-5 Kombai(コンバイ語) by Farhan Ishraq, Jerome Jochems(consultant: Lourens de Vries)
https://aplo.asia/wp-content/uploads/2023/04/aplo-2023-prob.ja_.pdf
Step.1 軽い頻度解析
何はともあれ、まずは頻度解析です。データ内のコンバイ語の文で複数回出てくる単語をリストアップしてみましょう。
コンバイ語 | 出てくる文 |
---|---|
khuro | 1, 5 |
leikhe | 2, 4 |
dodo | 3, 12 |
gwari | 3, 7 |
lei | 3, 10, 14 |
la | 4, 15 |
a | 7, 10, 12, 15 |
これらをその日本語訳と見比べることで、次の対応が分かります。
コンバイ語 | 日本語 |
---|---|
dodo | 木 |
gwari | ヘビ |
la | 妻 |
a | 家 |
これにて軽い頻度解析は一通り完了です。
さらにここで得られた情報から、次のように語順を定めることができます。
B A V: AはBにいる/ある |
Step.2 名詞句解析
次に名詞句解析です。まずは「PのN」という形をした所有表現から調べていきましょう。データ内の名詞句の中から、単純な所有表現を抜き出してリストアップすると、次のようになります。*1
コンバイ語 | 日本語 | 出てくる文 |
---|---|---|
nare | 私の父 | 2 |
namomo | 私のおじ(pl) | 5 |
nane | 私の鳥(pl) | 11 |
namiyo | 私の子ども | 13 |
naramu | 私のキュウリ | 14 |
khemakhü | 彼の犬 | 6 |
areya la | 父の妻 | 4 |
elo khuro | 鳥のジャングル | 5 |
dodofa gwari | 木のヘビ(pl) | 7 |
afa makhü | 家の犬(pl) | 8 |
khalakha amiya | ヤムイモのミミズ | 10 |
dodofa a | 木の家 | 15 |
これを見ると、所有表現は雑に書くと次のような形で表現されることが分かります。
・私のN: na-N
・彼のN: khe-N
・PのN: P-(接辞) N (P ≠ 私、彼)
ここで、「父」と「鳥」はそれぞれ"are"、"e"のはずですが、「私の」が付くと"nare"、"nane"となっています。これについては音韻規則na-a > na、na-V > nanV (V ≠ a)を立てることで説明ができます。おそらくは「彼のN」についても同様の規則があるでしょう。*2
では、P ≠ 私、彼のときのPに付く接辞について調べていきましょう。まずは、現れる接辞とそのときのP、Nをリストアップしていきます。
接辞 | P | N |
---|---|---|
fa | おじ、木、家 | 友人(pl)、ヘビ(pl)、犬(pl)、家 |
na | 妻 | ヘビ |
ya | 父、友人 | 妻、家 |
ye | 父、ミミズ | 鳥、果物 |
lo | 鳥 | ジャングル |
la | 鳥 | 庭 |
kha | ヤムイモ | ミミズ |
これを見ると、子音が同じ接辞ではPが、母音が同じ接辞ではNが凡そ共通であることが分かります。なので、例えばS={おじ、木、家}、T={妻}、U={父、友人、ミミズ}、V={鳥}、W={ヤムイモ}、X={友人、ヘビ、犬、家、妻、庭、ミミズ}、Y={鳥、果物}、Z={ジャングル}などと置いて
N\P | S | T | U | V | W |
---|---|---|---|---|---|
X | fa | na | ya | la | kha |
Y | fe | ne | ye | le | khe |
Z | fo | no | yo | lo | kho |
のように書くこともできますが、如何せんこれでは冗長が過ぎるので、もう少しスマートな規則を立てたいところです。*3
まず、子音については各Pに対応することから、もともとその子音が名詞に含まれるものとして「独立して用いるときに語末子音が落ちる」というように説明することができます。
次に母音です。まずX、Y、Zの名詞をコンバイ語に直すと次のようになります。
X={nay、gwariC、makhüC、af、lan、yarimoC、amiyay}
Y={el、edoloC}
Z={khuroC}
これを見ると、X、Y、Zに属する各名詞はそれぞれ第一音節の母音が一致していることが分かります。したがって、ここでは母音調和(逆行)が起きていると説明することができます。
これにて名詞句解析は一通り完了です。
Step.3 動詞解析
次に動詞解析です。まず、頻度解析などによって次のように形態素に分割していきます。
文 | コンバイ語 |
---|---|
1 | ba-bama-no |
2 | lei-khe |
3 | lei |
4 | lei-khe |
5 | le-no |
6 | le-khe |
7 | lei-no |
8 | le-no-kho |
9 | ba-kha |
10 | lei |
11 | ba-no-kho |
12 | le |
13 | lei-leima |
14 | lei |
15 | ba-bama-kha |
次に、各形態素の役割を調べていきます。
Step.3-1 語幹解析
まずは語幹です。文3、10、12、14ではおそらく語幹がそのまま使われていると考えることができるので、それを用いると語幹は"ba"、"lei"、"le"であると考えられます。
使い分ける基準は何でしょうか。ある文法範疇に依存するとしても、三つに分かれるようなことは考えにくいですし、音韻規則によって定まるとするのも無理がありそうです。
そこで、これが「状況」を表していると考えるとうまくいきます。具体的には次のような状況が対応します。
語幹 | 状況 |
---|---|
ba | 座っている |
le | 立っている |
lei | 寝そべっている |
これにて語幹解析は一通り完了です。
Step.3-2 疑問形態素解析
次は疑問です。疑問文は2、4、6、8、11、15ですが、これらに共通する形態素は"khV"です。逆にこれら以外の文では"khV"が含まれないので、これが疑問を表しているとしてよいでしょう。
また、Vはa、e、oの三通りがありますが、これはStep.2での結果を踏まえると、母音調和(順行)が起きていると説明することができます。
これにて疑問形態素解析は一通り完了です。
Step.4 母音調和規則
最後に母音調和の規則をもう少ししっかりと書き下しておきましょう。
まず、ここまでの議論で、aはaに、eはeとeiに、oはoに同化していることが分かりますが、uやüに同化した場合はどうなるのでしょうか。
実は、aは中舌母音、eは前舌母音、oは後舌母音であることから、次のように規則を一般化することができます。*4
・a: 中舌母音に同化
・e: 前舌母音に同化
・o: 後舌母音に同化
uは後舌、üはiと同じ前舌であることから、それぞれ同化するとo、eとなります。
これにて母音調和規則の書き起こしは完了です。
Step.5 解答
必要な情報が出揃ったので、解答を書いていきます。
規則
文構造
B A V: 「AはBにいる/ある」
名詞句構造
名詞の語末子音が脱落した形をN*と書く。
・N: N*
・私の/彼のN: na/kha-N*
・PのN: P-V(逆行調和) N*
音韻規則
・CV'-V > CVnV(V' ≠ V)
・CV'-V > CV(V' = V)
動詞構造
(語幹)-(習慣)-(数)-(疑問)
語幹
ba | 座っている |
le | 立っている |
lei | 寝そべっている |
習慣: (語幹)-ma
主語複数: no
疑問: khV(順行調和)
母音調和
・a: 中舌母音(a)に同化
・e: 前舌母音(i, e, ü, ei)に同化
・o: 後舌母音(o, u)に同化
設問
(a)
16. 子ども(複数)は水の庭にいる。
17. 彼の妻のミミズはいつも私の水(の中)にいるか?
(b)
18. 子どもはいつも私の木にいる。 [立ちながら]
19. 私の妻はいつもそこにいるか? [座りながら]
(c)
20.
(i) 彼の友人(複数)は彼のジャングルにいる。
(ii) 彼の家(複数)は彼のジャングルにある。
(d)
21. Khedolo khenamiya leino.
22. Areyo dodo lekhe?
23. Nayo khuro na leno.
24. Khuro namakhü lelemakha?
*1:「P1のP2のN」のような名詞句も存在するのですが、この場合P2に多くの情報が含まれ過ぎてややこしくなるので一度除外して考えます。
*2:実際、文14の"khela"(彼の鳥の~)と文9の"khenareye"(彼の父の~)を見ることで正当化することができます。
*3:実際の試験ではこのような記述でも正しければ問題はないですが、これで全てを尽くすのは難しいことの方が多いです。
*4:この問題では母音の詳細な特徴については触れられていませんが、"Forms and functions in kombai, an awyu language of Irian Jaya"(Lourens de Vries, 1993)などを参照すると実際にこうなっていることが確かめられます。