APLO2024-2 ウェンバウェンバ語 解説

Dzień dobry. MPIです。代表落ちて悲しいので、逆に(?)積極的に言オリ解説をしていきたいと思います。
今回はAPLO2024より第2問、ウェンバウェンバ語の問題です。早速始めていきましょう!

問題の出典

APLO2024-2 Wemba Wemba(ウェンバウェンバ語) by Vlad A. Neacșu
https://aplo.asia/booklets/aplo-2024-prob.ja.pdf

Step.1 語句1~10解析

 まずは前半部の語句1~10について調べていきます。初めに、1~10に出てくるウェンバウェンバ語の単語をリストアップしていきます。

ウェンバウェンバ語 出てきた語句
kali 1, 2
lar 1, 9
mir 2, 3, 4
katjin 3, 6
kurrk(i)*1 4, 10
marti 5, 6
karr 5
miRk 7
purrp(i) 7, 8, 9
puRt 10

 次に、複数の日本語訳に関連する概念を抜き出してまとめてみましょう。
・「赤い目」「まぶた」「涙」 → 目
・「屋根」「門」 → 家、建造物
・「涙」「洪水」 → 水、液体
・「脳」「頭」 → 頭
 ここで、ここに挙げられた概念を表す単語があるものとすると*2、頻度解析によりmir = 目となります。さらに、屋根を「家の頭」の意訳と解釈することで、purrp = 頭となり、また頻度解析によりlar = 家と分かります。
 このとき、katjinまたはkurrkがそれぞれ「水」「赤」を表すと分かりますが、仮にkurrk = 水であるとすると、頻度解析より10が洪水となりますが、「煙+水」が「洪水」を表すのは少し考えにくいです。よってkatjin = 水、kurrk = 赤と分かります。*3
 以上より、次の対応が分かります。

ウェンバウェンバ語 日本語直訳 日本語訳
kali lar ?+家
kali mir ?+目 まぶた
katjin mir 水+目
kurrki mir 赤+目 赤い目
marti karr ?+? 大きな鼻
marti katjin ?+水 洪水
miRk-purrp ?+頭
purrp
purrpi lar 頭+家 屋根
puRt kurrk 煙+赤 悪霊

 ところで、kali、marti、karr、miRkの意味は何でしょうか。
 まず、門とまぶたについて考えると、いずれも家や目の前に立ってそれらを守る役割を担っているので、kali = 蓋であると考えられます。次に、martiまたはkarrが「大きい」「鼻」を表すと分かるので、洪水の直訳と見比べることで、marti = 大きい、karr = 鼻であると分かります。miRkについてはいくらでもこじつけが利きそうなので一度放っておきましょう。*4
 これにて語句1~10の解析は完了です。

Step.2 語句11~24解析

 続いて後半部の語句11~24について調べていきます。前半部でウェンバウェンバ語の語句についてある程度勝手が分かったと思うので、同じ要領で進めていきます(ただし少し難しい、というかややこしいです。)。ひとまず、11~24に出てくるウェンバウェンバ語の単語をリストアップしていきます。

ウェンバウェンバ語 出てきた語句
kalk(i) 11, 12, 14, 21
tjina 11, 20, 24
werp 12
kurri 13, 22
murti 14, 15
paR 15, 16, 17
manya 17
putj(i) 18, 19, 20
karr 19
wartipi 21, 22, 23, 24
liti 23

 ここで、「カンガルー」と「幼いカンガルー」がともに日本語訳に存在するので、カンガルーを表す単語があると考えられます。同様に、川を表す単語が存在します。よって、kurri、paR、putjについては、そのうち2つが「カンガルー」、「川」を意味することが分かります。また、設問(c)の注釈より、kalkとlitiの何れかは二つの意味を持ちますが、litiの用例が一つしかないことに注意すると、kalkが二つの意味を持つと分かります。
 では、前半と同様、複数の日本語訳に関連する概念を抜き出してきてまとめてみましょう。
・「未婚の女性」「幼いカンガルー」 → 小さい
・「足骨」「足の裏」「足の指」 → 足
・「棒」「足骨」「背骨」 → 骨*5
・「棒」「短い木」 → 木
 ここで、仮にkalk = 骨/木であるとしてみます。このとき、足 = tjinaまたはwartipiとなります。足 = wartipiであるとき、語構造に注意すると、背 = murti、短い = tjinaとなります。このとき、頻度解析よりputj = 川となりますが、kurri = カンガルーだと「幼いカンガルー」=「背+カンガルー」となって流石に無理があるので、paR = カンガルー、manya = 小さいのようになります。しかし、このとき結局「未婚の女性」を先ほどの分析通りに表現できないので、そもそも足 = wartipi自体が誤りであると考えられます。したがって、足 = tjina、背 = werpです。
 このとき、paR = カンガルーであるとすると、murti = 小さいとなりますが、するとまた「未婚の女性」を上手く表せなくなるので、paRはカンガルーを表さないと考えられます。同様に、putjもカンガルーを表さないので、kurri = カンガルー、wartipi = 小さいとなります。このとき、liti = 女性となって上手くいきます。また、「wartipi kalk」は「小さい+骨/木」で「棒」、「wartipi tjina」は「小さい+足」で「足の指」を表します。
 このとき、「murti kalk」が「短い木」となるので、murti = 短い、paR = 川となり、さらに、「鼻の穴」と「足の裏」に共通する概念を考えると「見えない部分」即ち「内側」となるので、putj = 内側 = お腹となります。*6
 以上より、次の対応が分かります。

ウェンバウェンバ語 日本語直訳 日本語訳
kalki tjina 骨/木+足 足骨
kalki werp 骨/木+背 背骨
kurri カンガルー カンガルー
murti kalk 短い+骨/木 短い木
murti paR 短い+川 短い川
paR
paR manya 川+? タコ
putj 内側 お腹
putji karr 内側+鼻 鼻の穴
putji tjina 内側+骨/木
wartipi kalk 小さい+足 足の指
wartipi kurri 小さい+カンガルー 幼いカンガルー
wartipi liti 小さい+女性 未婚の女性
wartipi tjina 小さい+足 足の指

 ところで、manyaの意味は何でしょうか。「川+manya」で「タコ」を表すので、タコの何かが川のようになっていると考えると、manya = 触手のように考えられます。実際、設問(d)の29.が解けることから、manya = 手と考えることで説明がつきます。
 これにて語句11~24の解析は完了です。

Step.3 解答

 必要な情報が出揃ったので、解答を書きます。今回は答え以外の追加説明が不要となっているので、設問への答えのみ書くことにします。

設問
(a)

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
E F J C B G D H I A

(b)

11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24
K S L Q P O N U M R T X W V

(c)
25. 骨、木
26. 水
27. 女性

(d)
28. marti kurri
29. wartipi manya
30. kalki purrp

*1:kurrkとkurrkiは別の単語と看做すよりもkurrk N > kurrki Nであると解釈する方が自然であると考えられます。purrpについても同様です。

*2:問題によってはこのような考え方で解き進めるのは難しいものもありますが、ある程度情報を集めるのには有効なことも多いです。

*3:実際には、kurrk = 血だそうです。

*4:結局最後まで謎なまま終わるのですが、miRk = 卵だそうです。

*5:若干こじつけ感が強いですが、実際「棒」を木や骨などに関連するものと捉える言語は多く存在するので、そこまで無理はないかと思います。

*6:一見突飛ですが、場所と身体部位を同じ単語で示すのは珍しいことではありません。また、ここまでで対応の確定しない日本語訳は「タコ」と「お腹」しかありませんが、流石に「鼻の穴」と「足の裏」がともに「タコ」と関連するというのは考えにくいですよね。